どうも。こんにちは。
ケミカルエンジニアのこーしです。
本日は、「化学プラントにおけるPIDパラメータの調整方法(PIDチューニング)」についてわかりやすく解説していきます。
この記事を読むことで、化学プラント特有の流量、液面、圧力、温度、成分制御におけるPIDパラメータの調整ができるようになります。
本記事の内容
- PIDパラメータの調整方法(限界感度法、ステップ応答法)
- 流量、液面(レベル)、圧力、温度、成分制御のPIDパラメータ調整方法
- 化学プラントの代表的なPIDパラメータのまとめ
PID制御の基礎部分については、下記の記事で詳しく解説しています。
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【わかりやすく解説】化学系のためのPID制御
続きを見る
この記事を書いた人
こーし(@mimikousi)
目次
PIDパラメータの調整方法(PIDチューニング)
PIDチューニングの手順
PIDパラメータの調整は、下記の3ステップで行います。
Step | 項目 | 内容 |
Step1 | 現状把握 | ・対象プロセスをよく理解する(相互干渉に注意)。 ・制御目的と制約を整理する。 ・現状の制御性能を把握する(標準偏差など)。 ・通常の操作量や整定時間を把握する。 |
Step2 | ステップテスト | ・通常操作量の2倍の大きさでステップ入力 ・上昇方向、下降方向にそれぞれ2ステップ以上加える。 ・ステップ間隔は、プロセスの整定時間とする。 ・操作部の不感帯に注意する。 |
Step3 | PIDチューニング | ・試行錯誤法 ・弱めのパラメータから徐々に強くする。 ・毎回の変更履歴を残す(PIDパラメータと変更時間) ・制御性能を確認する(標準偏差など)。 |
制御性能を把握するための評価指標について、下記の記事で詳しく解説しています。
非常にわかりやすい指標ですので、ぜひ使ってみてください。
-
【現場で使える!】PID制御の性能評価方法(プロセス制御)
続きを見る
PIDチューニングには、「限界感度法」や「ステップ応答法」などがありますが、結局は「試行錯誤法」による微調整が必要になります。
「限界感度法」では、わざと持続振動を起こしてPIDパラメータを求めますので、現場では使いにくく、使用することはほとんどないです。
また「ステップ応答法」は、時定数 \(T\)(後述)を得るために使うことはありますが、PIDパラメータを決定できるほどの精度は無いため、最終的には試行錯誤してPIDパラメータを決定します。
ジーグラ・ニコルス法①(限界感度法)
使うことはほとんど無いと思いますが、簡単に手順だけ紹介します。
手順
- 積分時間\(T_{I}\)を最大(積分ゲイン\(K_{i}\)を最小)にして、比例動作だけにする。
- 比例ゲイン\(K_{p}\)を上げていく(比例帯\(PB\)を小さくしていく)
- 比例ゲインを上げていくと、ある点\(K_{p}=K_{u}\)で持続振動が起こるので、その時のゲイン\(K_{u}\)と、振動周期\(P_{u}\)を記録する。
- 下表に従って、PIDパラメータを決定する。
<限界感度法によるパラメータ調整>
\(K_{p}\)(100/PB) | \(T_{I}\) | \(T_{D}\) | |
P制御のみ | 0.5\(K_{u}\) | - | - |
PI制御 | 0.45\(K_{u}\) | 0.83\(P_{u}\) | - |
PID制御 | 0.6\(K_{u}\) | 0.5\(P_{u}\) | 0.125\(P_{u}\) |
ジーグラ・ニコルス法②(ステップ応答法)
上図は、制御対象に単位ステップ入力(例えば、MV=1%変更)を加えたときの制御対象のステップ応答です。
得られたプロセスゲイン\(K\)、時定数\(T\)、むだ時間\(L\)から、下表に従ってPIDパラメータを決定します。
プロセスゲイン\(K\)は下式で求めます。(\(\Delta F =\)制御量の変化が検出レンジの何%か)
$$K=\frac{\Delta F}{\Delta MV}\tag{10}$$
例えば、ステップ入力としてMVを10%動かした場合、制御量が検出レンジの1%動けばプロセスゲイン\(K\)は0.1で、検出レンジの10%動けばプロセスゲイン\(K\)は1です。
<ステップ応答法によるパラメータ調整>
\(K_{p}\)(100/PB) | \(T_{I}\) | \(T_{D}\) | |
P制御のみ | \(\dfrac{T}{KL}\) | - | - |
PI制御 | \(\dfrac{0.9T}{KL}\) | 3.33\(L\) | - |
PID制御 | \(\dfrac{1.2T}{KL}\) | 2\(L\) | 0.5\(L\) |
上表のようにパラメータを設定しなくとも、プロセスゲイン\(K\)、時定数\(T\)、むだ時間\(L\)を得ることは非常に有用です。
その他のステップ応答法
ステップ応答法については、多くのパラメータ決定法が提案されています。
- 高橋の調整則
- Hazebroek and Waerdenの調整則
- Wolfeの調整則
- Chien ,Hrones and Reswickの調整則
- Cohen and Coonの調整則
- Lopez,Miller,Smith and Murrillの調整則
上記については、こちらの教科書に詳しい解説があります。
この教科書では、2自由度PID制御や自動調整法についても詳しく解説されています。
化学プラントの代表的なPIDパラメータ
化学プラントのプロセス制御は、主に流量、液面、圧力、温度、成分制御であり、これらの制御のPIDパラメータ調整方法について解説します。
ここでは、PID制御の基礎式が(1)式または(2)式という前提で解説していきます。
基礎式①
比例帯\(PB\) [%]
積分時間\(T_{I}\) [秒]
微分時間\(T_{D}\) [秒]
基礎式②
比例ゲイン\(K_{p}\) [-]
積分時間\(T_{I}\) [秒]
微分時間\(T_{D}\) [秒]
流量制御
流量制御がプロセス制御の中でもっとも多く使われておりますが、比較的応答が速いため、制御で問題になることはほとんどないです。
流量制御の特徴
• 応答が速い
• むだ時間がほとんどない
• 流量ノイズがある
流量制御系のPIDパラメータの目安
①. 比例帯\(PB=100\sim 500\%\)(\(K_{p} =0.2\sim 1.0\))
②. 積分時間\(T_{I}= 6\sim 60\)秒
③. 微分時間\(T_{D} = 0\) (使用不可)
流量制御では、流量ノイズが存在するため、微分制御は使えません。
流量ノイズがあると偏差の変化速度が非常に大きくなり、微分制御が強く働きすぎてハンチングしてしまいます。
よって、流量制御に微分制御は使わないようにしましょう。
また、流量ノイズのため比例制御も強くできません。
よって、比例帯を大きく(比例ゲインを小さく)しておく必要があります。
<流量制御のPIDパラメータの調整方法>
まず、ステップ応答を見て時定数\(T\)を確認し、積分時間\(T_{I}\)=時定数\(T\)とします。
次に、比例帯を500%くらいから徐々に100%くらいまで小さくしていき、振動が大きくならない程度で止めます。
(比例ゲインの場合は、小さく設定して始め、徐々に大きくしていく)
流量制御は、積分制御がメインとなりますので、比例制御は弱めに設定します。
液面(レベル)制御
多くの場合、液面は入と出の流量差の積分値となります。
出側の流量が多い場合は、液面は下がり続けますし、入り側の流量が多い場合は、液面は上がり続けます。
液面のプロセス特性は積分系であり、PID制御の積分制御がなくてもオフセットが生じにくいです。
よって、液面制御における積分制御は極力弱く設定します。
液面(レベル)制御の特徴
• 液面が共振により波打っていることがある
• 流入する液体の飛散や乱流によるノイズが多い
• レベルは、流入流量と流出流量の差の積分となる
• バッファタンクとしての役割であれば、液面よりも流出流量を安定化させる必要があるため、液面制御は弱くすべき
• むだ時間がほとんどない
液面制御系のPIDパラメータの目安
①. 比例帯\(PB=10\sim 100\%\)(\(K_{p} =1\sim 10\))
②. 積分時間\(T_{I} = 1000\sim 1200\)秒
③. 微分時間\(T_{D} =0\)(使用不可)
液面(レベル)制御でも、ノイズが存在するため、微分制御は使えません。
積分制御も不要ですので、比例制御がメインとなります。
<液面制御のPIDパラメータの調整方法>
まず、PV値とMV値を並べて比較し、波打つ周期の位相差を確認します。
そして、位相差が何秒あるのかを確認し、位相差分だけ積分時間を増やします。
理想的には、位相差がないほうが良いです。(下図参照)
液面制御は、積分時間が小さ過ぎる(強すぎる)ことに起因する自励振動が起こっていることがあります。
積分時間が小さく過ぎないかチェックしましょう。
積分時間を調整したら、今度は比例帯PBを100%から徐々に小さくしていき、振動しない程度で止めます。
(比例ゲインの場合は、小さく設定して始め、徐々に大きくしていく)
圧力制御
圧力制御は、操作量MVを一定量だけ過剰に動かした際の挙動によって2種類に分類できます。
- 液面(レベル)制御のように、上がり続けたり、下がり続けたりする系(積分系)
- 流量制御のように、ある一定値に止まる系(定位系)
積分系の場合、液面(レベル)制御と同様の方法でPIDパラメータを調整します。
圧力制御(積分系)のPIDパラメータの目安
①. 比例帯\(PB=10\sim 100\%\)(\(K_{p} =1\sim 10\))
②. 積分時間\(T_{I} = 1000\sim 1200\)秒
③. 微分時間\(T_{D} =0\)(使用不可)
一方、定位系の場合、流量制御と同様の方法でPIDパラメータを調整します。
圧力制御(定位系)のPIDパラメータの目安
①. 比例帯\(PB=100\sim 500\%\)(\(K_{p} =0.2\sim 1.0\))
②. 積分時間\(T_{I}= 6\sim 60\)秒
③. 微分時間\(T_{D} = 0\) (使用不可)
温度制御
温度制御は応答が遅いため、制御が難しい系になります。
よって、微分制御を加える必要があります。
温度制御の特徴
- 時定数が大きい
- ノイズが比較的少ない
温度制御系のPIDパラメータの目安
- 比例帯\(PB=10\sim 100\%\) (\(K_{p} =1\sim 10\))
- 積分時間\(T_{I} = 600\sim 1200\)秒(時定数\(T\)に合わせると良い)
- 微分時間\(T_{D} =6\sim 60\)秒
<温度制御のPIDパラメータの調整方法>
ステップ応答から求めたプロセスの時定数\(T\)を積分時間\(T_{I}\)とする。
微分時間を6〜60秒くらいで適当に加える。(できるだけ小さく始めること)
比例帯を100%から徐々に小さくしていき、比例制御を強くする。
(比例ゲインの場合は、小さく設定して始め、徐々に大きくしていく)
成分制御
成分制御は多種多様ではありますが、一般的な特徴について記載しておきます。
成分制御の特徴
- 非線形特性を持つ場合が多い。(p H制御など)
- 反応、混合、移動、検出遅れなどにより、むだ時間がある。
成分制御系のPIDパラメータの目安
- 比例帯\(PB=100\sim 1000\%\) (\(K_{p} =0.1\sim 1\))
- 積分時間\(T_{I}\) 時定数による
- 微分時間\(T_{D} =0\)(通常使用しない)
成分制御は、むだ時間があるため、強い制御をかけることはできません。
積分制御を主体にゆっくりとした制御を狙います。
また、むだ時間がある系では、微分制御を入れると不安定になりやすいため、微分制御は基本使わない方が良いです。
化学プラントの代表的なPIDパラメータまとめ
これまで解説してきました化学プラントにおけるPIDパラメータについて下表にまとめました。
様々な教科書や文献を調査し、最終的に自分が担当するプロセスに当てはめてみた結果になります。
流量 制御 |
液面 制御 |
圧力 制御 (積分系) |
圧力 制御 (定位系) |
温度 制御 |
成分 制御 |
|
比例帯 \(PB \%\) |
100〜500 | 10~100 | 10~100 | 100〜500 | 10~100 | 100~1000 |
比例ゲイン\(K_{p}\) | 0.2〜1.0 | 1~10 | 1~10 | 0.2〜1.0 | 1~10 | 0.1~1.0 |
積分時間 \(T_{I}\) 秒 |
6~60 | 1000~1200 | 1000~1200 | 6~60 | 600~1200 (時定数\(T\) 次第) |
時定数\(T\) 次第 |
微分時間 \(T_{D}\) 秒 |
0 | 0 | 0 | 0 | 6〜60 | 0 |
また、詳細なPIDパラメータの経験則を文献で見つけたので紹介します。
制御量 | 比例ゲイン\(K_{p}\) | 積分時間\(T_{I}\) 分 | 微分時間\(T_{D}\) 分 |
流量 | 0.30 | 0.50 | 0 |
流量:カスケード制御2次ループ | 0.40 | 0.20 | 0 |
圧力:蒸留塔 | 2.0 | 2.0 | 0 |
圧力:圧縮機 | 3.0 | 1.5 | 0 |
液面:厳密液面制御 | 3.0 | 20 | 0 |
液面:均流液面制御 | 0.65 | 30 | 0 |
温度:混合 | 1.0 | 1.0 | 0.20 |
温度:熱交換器 | 2.0 | 3.0 | 0.60 |
温度:蒸留塔・還流操作 | 1.0 | 10 | 2.0 |
温度:蒸留塔・リボイラ熱媒量操作 | 1.0 | 15 | 3.0 |
引用 化学工学_プロセス制御におけるPID制御-基礎と応用_第7回 PIDチューニング
制御を安定化させる微分制御ですが、化学プラントにおいては、ノイズやむだ時間のために使えないケースが多く、温度制御くらいにしか使用しません。
よって、むやみに微分制御を入れるのはやめましょう。(私も昔は、考えもなしに微分制御をいたる所で使っていました)
また、プロセスによってはIP-D制御やI-PD制御、2自由度PID制御になっているかもしれませんが、化学プラントにおいてはこれらの重要性は低いです。
IP-D制御やI-PD制御、2自由度PID制御の基本思想は、「設定値変更の際の微分制御による出力の急変をいかにマイルドにするか」ですので、下記のような化学プラントの特徴を考えると、特に気にせず上表を目安にPIDパラメータを決定していけば良いです。
- 温度制御以外に微分制御をほとんど使わない
- 設定値の変更が頻繁ではない
最後に【超重要!!】
PIDパラメータの調整を行っていると下記のような状況によく直面します。
- 上流もしくは下流のPID制御の振動が外乱となっていた。
- 液面計・流量計が正しい値を示していなかった。
- バルブの不具合が外乱となっていた。
よって、PIDパラメータの調整を行う際は、広い視野で該当プロセス全体をよく観察しましょう。
一つの制御系だけを見ていては、PID制御パラメータの最適化は難しいです。
また、計装機器の不具合の可能性についても頭に入れておきましょう。
参考文献
はじめての制御工学は、初学者向けの本です。
制御工学の本は何冊か読みましたが、伝達関数、安定性、周波数応答、ナイキスト安定判別法の解説はこの本が一番わかりやすかったです。
この本の欠点は、化学プラントでは無視できない「むだ時間」の解説が無いことと、PID制御の説明が少ないこと(多く求めすぎか)です。
むだ時間の解説とPID制御の解説については、PID制御の基礎と応用で補うことができます。
1冊目の入門書としては使えないですが、非常に見やすく書かれており、PID制御について現場で見返したりする際にとても重宝しています。
PID制御 (システム制御情報ライブラリー)は、上級者向けの本です。PID制御について詳しく知りたくなったら読むべき教科書です。