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【例題でわかる】対数平均温度差(LMTD)の計算方法

2021年7月10日

対数平均温度差
対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)ってどうやって計算するんだっけ?
あと、そもそもなぜ「対数平均」を使う必要があるのだろう?

こんなお悩みを解決します。

どうも。こんにちは。
ケミカルエンジニアのこーしです。

本日は、「対数平均温度差(LMTD)の計算方法」について例題を用いてわかりやすく解説していきます。

本記事を読むことで、対数平均温度差を迷わず計算できるようになります。

また、なぜ「対数平均」を用いるのか?についても解説します。

化学工学の教科書だけでは学べない内容ですので、ぜひ一緒に勉強していきましょう!

本記事の内容

・対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)(LMTD)とは
・向流式と並流式
・対数平均温度差の計算例(例題)
・対数平均を用いる理由

この記事を書いた人

profileこーし(@mimikousi)

対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)(LMTD)とは

対数平均温度差 並流2

上図は、熱交換器の概略図です。

熱交換器では、高温流体から低温流体へ熱が移動しており、高温流体は温度が下がり、低温流体は温度が上がります。

よって、熱交換器の位置によって高温流体と低温流体の温度差\(\Delta T \)が異なってきます。

そのため、熱交換器全体の"平均"温度差を考える必要があり、そこで登場するのが対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)です。

対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は、下式のように書けます。

対数平均温度差(LMTD)

$$\Delta T_{lm} = \frac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \left(\frac{\Delta T_1}{\Delta T_2}\right)}\tag{1}$$

ちなみに、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は、英語ではLogarithmic Mean Temperature Differenceと書けますので、頭文字を取ってLMTDとも呼ばれます。 

上図のように、温度変化を図示すると計算しやすいね!
こーし

 

並流式と向流式

並流式と向流式

熱交換器には、並流式向流式があります。

高温流体と低温流体を「並流」で流すのか、「向流」で流すのかの違いです。

上図からわかるように、向流式は温度差\(\Delta T\)に大きな変化はなく、伝熱量\(Q\)は熱交換器内でほぼ一定になります。

一方、並流式は低温流体の出口温度\(T_{C2}\)が高温流体の出口温度\(T_{H2}\)に漸近してしまうため、向流式に比べて、熱交換量が小さくなる傾向があります。

よって、大半の熱交換器は、向流式で設計されています。

向流式の優れている点

  • 並流式に比べて、温度差、すなわち単位面積あたりの伝熱量が一定となる。
  • 低温流体の出口温度\(T_{C2}\)を高温流体の出口温度\(T_{H2}\)よりも高くできる。
  • 並流式よりも伝熱量を多くすることができる。
伝熱量\(Q\)は、温度差\(\Delta T\)を推進力としているので、\(\Delta T\)が大きいほど、Qが大きくなるよ!
伝熱量と温度差の関係は、下の記事で詳しく解説しているよ!
オームの法則のアナロジーの部分を参照してね。
こーし
総括伝熱係数とは
【わかりやすい】総括伝熱係数(U値)とは?

続きを見る

 

高温流体が状態変化している場合

状態変化

高温流体が熱交換器内で状態変化している場合、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は、並流式でも向流式でも変化しません。

熱交換器内で高温流体が状態変化していると、上図のように高温流体の温度は一定になります。

これは高校化学で習いましたね。(参考記事:物質の三態(スマナビング!))

実務上、高温流体が一定になるのは、下記のような場合が考えられます。

具体例

  • 飽和蒸気による加熱器
  • 飽和蒸気の凝縮器
蒸発や凝縮など、状態変化するときは、潜熱の影響で温度が変化しにくいことを覚えておこう!
こーし

 

対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)の計算例(例題)

例題①

とある向流式の加熱器にて、130℃の熱媒を使用し、水を60℃から95℃に上昇させることを考えます。

熱媒は、熱交換器の出口で90℃まで低下しています。

このとき、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は何℃になるでしょうか。

それでは、早速例題を解いてみましょう!

高温流体(熱媒)は130⇒90℃となり、低温流体(水)は60⇒95℃になります。

向流式なので、下図のように書けます。

例題

よって、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は、

$$\begin{aligned}\Delta T_{lm} &= \frac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \left(\frac{\Delta T_1}{\Delta T_2}\right)}\\[5pt]
&=\frac{35-30}{\ln \left(\frac{35}{30}\right)}\\[5pt]
&=32.4℃(K)\end{aligned}$$

温度"差"なので、単位は℃でもKでも答えは同じになるよ!
こーし

 

例題②

とある向流式の加熱器にて、140℃の飽和蒸気を使用し、水を40℃から80℃に上昇させることを考えます。

飽和蒸気は、熱交換器の出口ではドレンとなり、135℃まで低下しています。

このとき、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は何℃になるでしょうか。

高温流体(飽和蒸気)は140⇒135℃となり、低温流体(水)は40⇒80℃になります。

飽和蒸気の温度変化が小さいのは、気体から液体に状態変化する際の「潜熱」を低温流体に伝えているからです。

例題①と同様に、向流式なので下図のように書けます。

例題②

よって、対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)は、

$$\begin{aligned}\Delta T_{lm} &= \frac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \left(\frac{\Delta T_1}{\Delta T_2}\right)}\\[5pt]
&=\frac{60-95}{\ln \left(\frac{60}{95}\right)}\\[5pt]
&=76.2℃(K)\end{aligned}$$

\(\Delta T_1\)と\(\Delta T_2\)は、順番を間違えても符号がマイナスになるので気づけるよ!
難しく考えなくても大丈夫!
こーし

 

【発展】なぜ対数平均を用いるのか?

微少区間

「なぜ対数平均を用いるのか」について、証明してみましょう!

上図に示した微小区間\(\Delta z\)で、高温流体と低温流体の熱収支を取り、\(z=0〜L\)まで積分すると、温度差が対数平均の形で表せます。

それでは、計算過程を極力省かずゴリゴリ計算していきます。

計算の手順

Step1 微小区間\(\Delta z\)での高温流体の失う熱量\(\Delta Q\)を求める
Step2 熱交換器の伝熱速度式\(Q= UA\Delta T\)から\(\Delta Q\)を求める
Step3 微小区間\(\Delta z\)での低温流体の受け取る熱量\(\Delta Q\)を求める
Step4 \(\Delta Q\)を消去し、\(\Delta z\rightarrow 0\)の極限をとる
Step5 (7)式を\(z\)を\( 0\sim L\)まで積分する
Step6 熱交換器の熱収支式を求める
Step7 (9),(10)式を(8)式に代入する

 

Step1 微小区間\(\Delta z\)での高温流体の失う熱量\(\Delta Q\)を求める

微小区間\(\Delta z\)における、高温流体の失う熱量は、下式のように書けます。

$$\Delta Q = -W_hC_{ph}\Delta T_h\tag{2}$$

記号の説明

\(\Delta Q\) [W]:高温流体の失う熱量
\(W_h\) [kg/s]:高温流体の流量
\(C_{ph}\) [J/(kg・K)]:高温流体の比熱
\(\Delta T_h\) [K]:高温流体の温度変化(<0)

 

Step2 熱交換器の伝熱速度式\(Q= UA\Delta T\)から\(\Delta Q\)を求める

続いて、熱交換器の伝熱速度式\(Q= UA\Delta T\)を用いて、微小区間\(\Delta z\)における、高温流体から低温流体に伝わる熱量を求めます。

$$\Delta Q = U\left(\pi D\Delta z\right)\left(T_h - T_c\right)\tag{3}$$

伝熱面積\(A\)は、\(A = \pi D \Delta z\)であり、温度差\(\Delta T\)は、\(\Delta T = T_h - T_c\)です。

記号の説明

\(U\) [W/(m2・K)]:総括伝熱係数
\(D\) [m]:管径
\(T_h\) [K] :微小区間\(\Delta z\)における高温流体の温度
\(T_c\) [K] :微小区間\(\Delta z\)における低温流体の温度

 

Step3 微小区間\(\Delta z\)での低温流体の受け取る熱量\(\Delta Q\)を求める

Step1と同様に、微小区間\(\Delta z\)における、低温流体の受け取る熱量は、下式のように書けます。

$$\Delta Q = -W_cC_{pc}\Delta T_c\tag{4}$$

記号の説明

\(\Delta Q\) [W]:低温流体の受け取る熱量
\(W_c\) [kg/s]:低温流体の流量
\(C_{pc}\) [J/(kg・K)]:低温流体の比熱
\(\Delta T_c\) [K]:低温流体の温度変化(<0)

 

Step4 \(\Delta Q\)を消去し、\(\Delta z\rightarrow 0\)の極限をとる

(2)、(3)式から\(\Delta Q\)を消去します。

$$- W_h C_{ph} \Delta T_h=U\left(\pi D \Delta z\right)\left(T_h - T_c\right)$$

ここで、\(\Delta z\rightarrow 0\)の極限を取り、\(\Delta z\rightarrow dz,\Delta T_h\rightarrow dT_h\)に変形すると、下式のように書き直せます。

$$\frac{dT_h}{dz}=-\frac{U\pi D\left(T_h - T_c\right)}{W_hC_{ph}}\tag{5}$$

 

同様に、(3)、(4)式から\(\Delta Q\)を消去します。

$$- W_c C_{pc} \Delta T_c=U\left(\pi D \Delta z\right)\left(T_h - T_c\right)$$

よって、上式についても\(\Delta z\rightarrow 0\)の極限を取って、\(\Delta z\rightarrow dz,\Delta T_c\rightarrow dT_c\)に変形すると、下式のように書けます。

$$\frac{dT_c}{dz}=-\frac{U\pi D\left(T_h - T_c\right)}{W_cC_{pc}}\tag{6}$$

 

(5)、(6)式をよく見てみると、\(T_h\)、\(T_c\)の微小変化\(dT_h\)、\(dT_c\)と、温度差(\(T_h - T_c\))が見つかります。

よって、(5)、(6)式の差を取ることで、\(\dfrac{d\left(T_h - T_c\right)}{T_h - T_c}\)の形を作ります。

$$\begin{aligned}\frac{d}{dz}\left(T_h - T_c\right)&=-U\pi D\left(T_h - T_c\right)\left(\frac{1}{W_hC_{ph}} - \frac{1}{W_c C_{pc}}\right)\\[5pt]
\frac{d}{dz}\left(T_h - T_c\right)&=\pi UD\left(\frac{1}{W_cC_{pc}} - \frac{1}{W_h C_{ph}}\right)\left(T_h - T_c\right)\end{aligned}$$

$$\frac{d\left(T_h - T_c\right)}{T_h - T_c}=\pi UD\left(\frac{1}{W_cC_{pc}} - \frac{1}{W_h C_{ph}}\right)dz\tag{7}$$

 

Step5 (7)式を\(z\)を\( 0\sim L\)まで積分する

(7)式の\(z\)を\( 0\sim L\)まで積分します。(温度は、\(T_{H1}\sim T_{H2}\)、\(T_{C1}\sim T_{C2}\)で積分)

この区間において、\(U,C_{ph},C_{pc}\)が一定であると見なすと、(7) 式は下式のように変形できます。

$$\begin{aligned}\int_{T_{H1},T_{C1}}^{T_{H2},T_{C2}}\frac{1}{T_h - T_c}d\left(T_h - T_c\right)&=U\left(\frac{1}{W_cC_{pc}}-\frac{1}{W_h C_{ph}}\right)\pi D\int_{0}^{L}dz\\[5pt]
\Bigl[ \ln \left(T_h- T_c\right) \Bigr]_{T_{H1},T_{C1}}^{T_{H2},T_{C2}}&=U\left(\frac{1}{W_cC_{pc}}-\frac{1}{W_h C_{ph}}\right)\pi D\Bigl [z\Bigr]_0^L\\[5pt]
\ln \left(T_{H2} - T_{C2}\right)-\ln \left(T_{H1} - T_{C1}\right)&=U\left(\frac{1}{W_cC_{pc}}-\frac{1}{W_h C_{ph}}\right)\pi DL\end{aligned}$$

$$\ln \frac{T_{H2} - T_{C2}}{T_{H1} - T_{C1}}=U\left(\frac{1}{W_cC_{pc}}-\frac{1}{W_h C_{ph}}\right)\pi DL\tag{8}$$

 

Step6 熱交換器の熱収支式を求める

高温流体側の熱収支式は、下式のように書けます。

$$Q = W_hC_{ph}\left(T_{H1} - T_{H2}\right)$$

ここで、少し変形すると下記(9)式となります。

$$\frac{1}{W_hC_{ph}}=\frac{\left(T_{H1} - T_{H2}\right)}{Q}\tag{9}$$

一方、低温流体側の熱収支式も下式のように書けます。

$$Q = W_cC_{pc}\left(T_{C1} - T_{C2}\right)$$

$$\frac{1}{W_cC_{pc}}=\frac{\left(T_{C1} - T_{C2}\right)}{Q}\tag{10}$$

 

Step7 (9),(10)式を(8)式に代入する

最後に、(9),(10)式を(8)式に代入し、\(Q=\)の式に変形します。

伝熱面積は、\(A=\pi DL\)なので、

$$\begin{aligned}\ln \frac{T_{H2} - T_{C2}}{T_{H1} - T_{C1}}&=U\left(\frac{T_{C1} - T_{C2}}{Q}-\frac{T_{H1} - T_{H2}}{Q}\right)\pi DL\\[5pt]
&=UA\frac{\left(T_{H2} - T_{C2}\right) - \left(T_{H1} - T_{C1}\right)}{Q}\\[5pt]
Q&=UA\frac{\left(T_{H2} - T_{C2}\right) - \left(T_{H1} - T_{C1}\right)}{\ln \frac{T_{H2} - T_{C2}}{T_{H1} - T_{C1}}}\end{aligned}$$

$$Q = UA \frac{\Delta T_2 - \Delta T_1}{\ln \frac{\Delta T_2}{\Delta T_1}}\tag{11}$$

(11)式の\(\dfrac{\Delta T_2 - \Delta T_1}{\ln \frac{\Delta T_2}{\Delta T_1}}\)は、分母分子に\(-1\)を掛けると、(12)式のように掛けます。

$$Q = UA \frac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \frac{\Delta T_1}{\Delta T_2}}\tag{12}$$

よって、(1)式に示した対数平均温度差\(\Delta T_{lm}\)を用いると、

$$Q = UA\Delta T_{lm}\tag{13}$$

よって、熱交換器の伝熱速度式が導けました。

対数平均温度差(LMTD)

$$\Delta T_{lm} = \frac{\Delta T_1 - \Delta T_2}{\ln \left(\frac{\Delta T_1}{\Delta T_2}\right)}\tag{1}$$

少し長くなりましたが、微小区間で熱収支を取り、積分すると温度差が対数平均の形で現れてくることがわかりましたね!
こーし

 

参考文献

輸送現象

本記事では、P.198〜200を特に参考にしました。

この教科書では、「流動」「伝熱」「拡散」の理論を詳しく勉強できます。

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  • この記事を書いた人
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こーし

■ケミカルエンジニア
■化学メーカー勤務
■現場配属の生産技術
■化学工学技士、統計検定1級など
■化学工学 × データサイエンス
pythonと数理統計学を勉強中!

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