どうも、こんにちは。
ケミカルエンジニアのこーしです。
本日は「統計検定は"取得する価値アリ"なのか?」について解説してみます。
私は、化学プラントで10年以上、現場の改善とデータ解析に携わってきたケミカルエンジニアです。
2019年に目標としていた化学系の資格をすべて取り終え、「次はデータサイエンスだ」と一念発起し、統計検定2級→準1級→1級の順に取得しました。
データサイエンスの学習に延べ1,000時間以上を投じた結果、現場での異常品流出を防いだり、品質閾値を統計的に設定したり、社内でも「統計検定1級取得者」として意見を通しやすくなる。そんな実利をつかめています。
本記事では、「どの級から受けるべき?」「勉強時間はどれくらい?」「本当にキャリアに効くの?」 といった疑問に、私自身の体験と失敗談を交えつつ答えます。
統計検定に挑戦するか迷っているあなたの判断材料になれば幸いです。
本記事の内容
- 統計検定は何級から受けるべきか
- 勉強時間の目安
- 役に立ったエピソード
- 社内評価とキャリア効果
この記事を書いた人
こーし(@mimikousi)
目次
筆者のバックグラウンド
私は、大学で「化学工学」を専攻していました。
カリキュラムに統計学は存在せず、学生時代に統計学を勉強したことはありませんでした。
大学卒業後は化学メーカーに入社し、物質収支や熱収支、蒸留や伝熱計算など、化学工学の技術を磨くことに専念していました。
一方で、化学メーカーでは統計的品質管理(SQC)を行っていますし、試作やプラントテストで得られたデータが統計的に有意かどうかなど、統計学を使う機会が多いと感じていました。
統計検定を受けようと思った理由
冒頭でも少し述べましたが、2019年に目標としていた化学系の資格をすべて取得したため、「次はデータサイエンスだ」と考えたことがキッカケです。
ただし、それ以前から統計学には注目をしていました。
2013年頃に「統計が最強の学問である」がベストセラーとなり、統計学やビッグデータが注目を浴びつつありました。
そして、2017年頃に受けた会社の研修で統計解析をはじめて勉強し、「これからデータ解析のブームが来るな」と感じていました。
とはいえ、これまで統計学を体系的に学んでこなかったため、イチから独学するなら「統計検定」という資格を利用しようと考えました。
また、資格試験は受験日が決まっているため、「強制力が働く」という実感がありました。
よって、統計検定を受けようと思った主な理由は下記の3点です。
統計検定を受けようと思った理由
- 独学なので理解度をしっかり測りたい
- 業務に関する知識だけでなく体系的に学びたい
- モチベーション維持のため「強制力」を働かせたい
スタートラインを自己診断しよう
統計検定に挑戦する前に、自分の現時点の実力(スタートライン)を見極めましょう!
私のスタートラインは下記の通りでした。
スタートライン
- 大学時代にマセマの微分積分を一周解いた。
- 大学院試験の線形代数は白紙で提出(ヤバい。。)
- 確率は、大学受験以来ほぼ使っていない。
一応理系なのですが、統計学や確率にかなりの苦手意識がありました。
しかし、これでも統計検定1級まで取得できるんです!
これまで全く数学に触れてこなかった方でも、努力さえすれば統計検定に合格することができます。
何級から受ける?最短ステップ
現時点で、統計検定は4級〜1級まであります(1級が一番難しいです)。
社会人でデータ解析をやってみたいと考えている方は、2級以上から挑戦してみると良いと思います。
学生の方は、学年によって統計検定3級、4級からスタートしても良いですね。
勉強時間の目安
実体験から、勉強時間の目安をまとめてみました。
統計検定 | 勉強時間(目安) | 勉強開始時期 | 前提 |
2級(CBT) | 80時間 | 試験2ヶ月前 | 平日1時間、休日2〜3時間(週10時間) |
準1級(CBT) |
300時間 | 試験6ヶ月前 | 平日1時間、休日3〜4時間(週12時間) |
1級 | 300時間 | 試験6ヶ月前 | 平日1時間、休日3〜4時間(週12時間) |
統計検定2級と準1級は、CBT(Computer Based Testing)方式なので好きな時期に受験することができます。
とはいえ、準備ができてから試験日を決めると、せっかくの「強制力」が使えなくなるので、先に試験日を決めてしまいましょう。
統計検定2級なら2ヶ月後、準1級なら6ヶ月後が目安です。
試験会場は地元のパソコン教室などです。家から近いところを選びましょう。
CBT方式について詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
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統計検定(CBT方式)の受験方法【出題傾向も解説!】
続きを見る
統計検定1級は、毎年11月に試験があります(1級は筆記です)。
私は、7月から勉強を始めて10月頃から本格的に勉強し、見事玉砕しました(2回目の挑戦で無事合格)。
統計検定準1級でも十分実務に役立つと思うので、まずは準1級を目標にしましょう!
身近に統計学の専門家がいないとか、統計検定1級に合格すると表彰金があるとか、もし特別な理由あるならば統計検定1級にもぜひ挑戦してみてください。
かなり大変ですが、自信はつくと思います。
合格体験談
合格体験談も記事にまとめています。参考になれば嬉しいです。
統計検定2級
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【初心者向け】統計検定2級の難易度は?【合格体験談】
続きを見る
統計検定準1級
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統計検定準1級(CBT)の難易度を解説!【合格体験談】
続きを見る
統計検定1級
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【不合格体験談】統計検定1級の難易度は?
続きを見る
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【合格体験談】統計検定1級の勉強方法
続きを見る
役に立ったリアルエピソード3選
次に、統計学を勉強して役に立ったエピソードを3つ紹介します。
化学メーカーの製造現場の事例ですので、わかりにくかったらすみません。。
①3σ管理の落とし穴
工場で製造するある製品で、品質規格に記載されていない微量成分の分析値に異常が発生しました。
社内では「とりあえず3σ管理で」という空気が強まり、
「平均±3σを超えたら不良品でいいでしょ?」
という意見が支配的になっていました。
しかし私は、微量成分(0ppm近傍)のデータは、正規分布ではなく、右に裾の長い分布(例:対数正規分布)であることを知っていたため、「このままではマズイ」と考え、下記の対応を行いました。
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ヒストグラムを作成し、データ分布の形状を明示
-
「平均±3σの範囲に99.7%収まるという前提は、正規分布に限る」ことを説明
-
実際には、平均±3σを超えるデータが1.8%も存在していたことを説明
実際のデータではありませんが、イメージ図を示します。
上図からわかるように、平均±3σの範囲外は、正規分布なら0.27%、対数正規分布では1.8%に達します。
つまり、危うく1.8%もの製品を不良品扱いしてしまい、コスト増になるところでした。
ポイント
- 「3σ管理」=万能ではない
- ヒストグラムを描き、分布の形状確認が必須
- 統計的品質管理では、分布の前提が成り立っているか?を常に疑う姿勢が大事
②定量下限未満データの検定
とある微量成分(例:1 ppm未満)の分析値について、「最近、平均値が変化しているのでは?」という指摘を受けました。
この疑問を検証するため、t検定(平均値検定)を実施したところ、有意差ありという結論が得られました。
しかし時系列でよく見ると、ある時期は低く安定し、別の時期は高めで推移していました。
「なんかデータの質が怪しいな。。」
と感じ、さらに調査してみると、
「今回の分析値の多くは定量下限未満のノイズ的データであり、信頼性の低いデータに過ぎなかった。」
ということがわかりました。
ポイント
- 統計学だけではなく、分析手法などの"ドメイン知識"も必要
- 特に微量成分では、定量下限(LOQ)を超えているかを必ず確認する
ちなみに、定量下限(LOQ:Limit of Quantification)とは、測定結果が「信頼できる数値」といえる最低値のことで、下記のように求めることができます(検出限界と定量下限の考え方参照)
定量下限の求め方
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RSD法:相対標準偏差が10%になる濃度
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ブランク法:ブランク試料の標準偏差の10倍
③相関のある品質指標の閾値設計
化学系の製造現場でよくあるのは、「オンライン計測値 X(連続測定)を見ながら、1 日 1 回の手分析値 Yも常に品質規格内に収めたい」という状況です。
ポイント
- X と Y は片方しかリアルタイムで分からない
- 両方とも品質規格内に収めたい
- X と Y は共に正規分布に従う
- X と Y は正の相関がある(相関係数0.6くらい)
実際のデータではありませんが、下にイメージ図を示しました。
これまでは連続測定値Xが品質規格内であっても、1日1回の手分析値Yが品質規格を外れないように、余裕を見て(例えば、X<105で)不良品タンクに送液する管理を行っていたようです。
上図から分かるように、Xを品質規格下限ギリギリまで製品タンクに入れてしまうと、Yが規格を外れる可能性が非常に高くなってしまいます。
そこで私は、相関のある2変量正規分布の条件付き期待値と分散を用いて、連続測定値Xを元に両方が品質規格を満たす閾値を算出しました。
長くなるので詳細は省きますが、下記の記事が参考になると思います(統計検定準1級の範囲です)
2変量正規分布の条件付き確率の期待値と分散(統計検定準1級対策3)
社内評価とキャリア効果
弊社内では、統計検定1級は「専門家」認定されています(と思っています)。
私の場合、データ解析を専門としておらず、現場をよく知った技術者という扱いでした。
しかし、そんな現場の技術者が「統計学」という武器を身につけると、大変重宝されます。
ただし、資格を取っただけでは「宝の持ち腐れ」になるので、積極的なアウトプットが必須です。
上記リアルエピソードの「③相関ある品質指標の閾値設計」は、私が統計学に詳しいという噂を聞きつけた他部署からの依頼でした。
このように、統計学の専門家扱いをしてもらうには、統計学を業務に生かす経験を積み重ねていく必要があります。
デジタル人材制度
旭化成や三井化学など、多くの化学メーカーでデジタル人材制度を導入しています。
デジタル人材制度とは、デジタル人材のスキルレベルを定義し、社員をレベル分けして人材育成する制度のことです。
もし、あなたの会社が「デジタル人材制度」を導入しているのであれば、統計検定を取得することで、一気に上位のレベルに認定されるかもしれません。
さらに、統計検定1級であれば、一番上のレベルも狙えると思います。
統計スキルが“盾”になる場面
統計検定1級取得後は、統計学の専門家扱いをされるので、データに関して下手な口出しをされなくなった気がします。
また、技術検討の会議などで、データの見方について意見を求められることが多くなりました。
ちなみに、よく見る間違いは下記の通りです。
ポイント
- 外れ値を含んだデータで相関係数を計算
⇒下図参照 - 異なる 2 群を合算して得られた見かけの相関
⇒下図参照 - 過学習
⇒下図参照 - 学習データだけでモデルの性能比較
⇒過学習を競っているだけになっている - 統計的仮説検定を濫用
⇒統計検定2級レベルだとやりがち
⇒データの分布や質を見極めた上で仮説検定すべき
【まとめ】統計検定は“時間投資”を回収できるか
結論、私は統計検定を取得して良かったと考えています。
データの扱い方に自信がもてるようになりましたし、体系的に学ぶことで視野が広くなったと思います。
もし、独学で業務に関連する部分しか勉強してこなかったら、もっと視野が狭かったと思います。
データはどんな分野でも扱うので、統計検定2級、準1級は皆さんぜひとも取得して欲しいと思います。
生成AIの活用
また、生成AIの登場により「Pythonコードをどう書くか」よりも、「統計学で何ができるのか」の方が重要になってきました。
よって、Python学習に費やすつもりであった時間を「統計検定」の学習ににシフトするのは良い戦略だと思います。
生成AIのおかげで、「Pythonコードをどう書くか」よりも「統計学で何ができるのか」の方が重要になった。
プログラミング無しでデータ分析の専門家になれる千載一遇のチャンスとも言える。
そこで、統計理論を体系的に学ぶために、"統計検定"の取得も視野に入れて良いと思う。#統計検定— こーし⚡️ケミカルエンジニア (@mimikousi) June 11, 2025
SNSの活用
SNSを活用して、さらに「強制力」を強める方法があります。
私の場合は、Xに目標を宣言し、自らにプレッシャーをかけています。
また、毎日のように勉強した結果やメモをXで発信することで、「SNSに投稿するために勉強する」という「強制力」を働かせることができます。
✅2023年の目標(β版)
①統計検定1級(統計数理)合格
②ブログ100記事到達(現55記事)
⇒月間10万PV、収益月10万円
③pythonブログ20記事執筆(現6記事)
④ソフトセンサーの実装
⑤異常検知の実装
目標高めだけど、とりあえず今年はこれで行くか!— こーし⚡️ケミカルエンジニア (@mimikousi) January 5, 2023
統計検定1級の過去問(2018〜2022年)を1周できた!
今後は下記5つをやりたいけど、確実に時間が足りない。
学生のうちに基礎は固めておきたかったな。。
①過去問2012〜2017年
②明解演習 数理統計
③現代数理統計学の基礎 演習問題
④公式テキスト 練習問題
⑤過去問2018〜2022年 2周目— こーし⚡️ケミカルエンジニア (@mimikousi) November 3, 2023
最後に
統計検定がキャリアアップにどのように繋がるのか、まだ見えていないところがあるかもしれません。
もし効果が認められれば、ブログやXで共有したいと思います!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。