ロボットや自動車の制御と何か違うのかな?
こんなお悩みを解決します。
どうも。こんにちは。
ケミカルエンジニアのこーしです。
本日は、「プロセス制御とは?」についてわかりやすく解説していきます。
私自身、学生時代は「プロセス制御」の重要性に全く気づいていませんでした。
しかし、実際の製造プロセスに携わることで、今後の製造技術を左右する重要な技術であることに気がつきました。
プロセス制御こそが、省エネ、脱炭素、環境問題などの解決策の一つになること間違いなしです。
これまでプロセス制御に興味がなかった方も、ぜひ一緒に勉強していきましょう!
本記事の内容
- プロセス制御とは
- プロセス制御の目的・役割・実例
- 使われている制御手法
- 参考文献
この記事を書いた人
こーし(@mimikousi)
目次
プロセス制御とは
プロセス制御とは、文字通りプロセスを対象とした制御のことです。
ここでいうプロセスとは、工業製品の「製造工程」のことを指します。
特に、石油・化学・鉄鋼・製紙・ガス・セメント・食品などの産業における「製造工程」をプロセスと呼びます。
注意ポイント
制御と言えば、ロボットや自動車などを思い浮かべる方が多いと思いますが、それらの「組立て産業」における製造工程はプロセスと呼ばないようなのでご注意下さい。
「生命燃ゆ」という小説に、プロセス制御の重要性を端的に表す台詞がありましたので、紹介します。
化学プラントにおける計装・制御システムがなんであるかを頭にたたきこんだ上で運転操作するのと、そうでないのとでは、まるで違う。
引用 生命燃ゆ 高杉良著
「生命燃ゆ」は、実在の計装エンジニアをモデルに書かれた小説で、昭和電工の大分エチレンプラントの建設プロジェクトがモデルになっています。
仕事に対する姿勢など、小説から学べるところが多々ありました。
とにかく、プロセス制御は重要だということですね。
プロセスのブロックフロー
一般的なプロセスでは、ざっくり上図のような製造フローとなります。
よって、各工程の特徴について、下表にまとめてみました。
工程 | 内容 |
原料調整 | 原料を適切な濃度や温度、圧力に調整して反応工程に送る。 |
反応工程 | 原料に化学変化を起こし、目的とする製品を生成する。 基本、副反応が起こるため、製品以外の副生品が生成する。 |
分離・精製工程 | 製品と副生品を分離したり、未反応の原料をリサイクルするために、分離・生成を行う。 |
最終処理工程 | 製品を出荷するための最終処理を行う。 コンテナに充填したり、出荷時の荷姿にする。 |
プロセスの各工程において、様々な製造装置が使用されています。
製造装置(例)
- 反応器
- タンク
- 熱交換器
- 蒸留塔
- 圧縮機
- ポンプ
- 梱包機 など
プロセス制御の制御対象
プロセスにおいては、物質の化学的・物理的変化により原材料を製品に変換しており、制御対象は主に下記の5つです。
プロセス制御の制御対象
- 温度
- 圧力
- 液面(レベル)
- 流量
- 成分
他産業とは制御対象が異なるため、制御設計も他産業と異なってきます。
プロセス制御の目的
小説「生命燃ゆ」に、プロセス制御の目的について記載がありましたので紹介します。
一つは公害を発生させないことを含めて安全運転が行われなければならない。
二つには、安定した運転、
三つめは最適経済運転
計装・制御システムもこれらの目的を十分に果たすように構成されなければなりません。
引用 生命燃ゆ 高杉良著
3つめの「最適経済運転」というのが、大規模装置を伴うプロセス産業ならではの制御思想なのだと思います。
プロセス制御の目的をまとめると、下表の通りです。
項目 | 内容 |
安全性 | 圧力、温度、濃度を所定の範囲内に収める。 |
品質スペック | 顧客の要求通りの品質を保つ。 |
環境基準 | 排水、排ガスは法律に定められた基準を満たす。 |
経済性 | 原料、エネルギー、労働力を極力少なくし、利益を最大化する。 高付加価値品を生産するためには、最適運転状態を維持する。 |
これは身をもって実感してますね!
プロセス制御の役割
上記の目的を果たすため、プロセス制御は各種の測定装置や調整弁、コンピュータを利用して、最適な操作を行います。
そして、プロセス制御の役割は下記の通りです。
プロセス制御の役割
- 外部環境の変化による影響(外乱)の抑制
- プロセスの安定化
- 運転の最適化
大事なところなので、それぞれ詳しく見ていきます。
外乱の抑制
- 原料の特性
- ユーティリティ(冷却水・蒸気)の特性
- 天候・季節・外気温
- 触媒活性 など
大元の原料である石油は、産地によって組成が変わってきますので、組成の変化は外乱になります。
また、多くの原料は他社から購入した製品であり、品質のバラツキも存在します。
そして、計器の異常やバルブの流量特性の変化など、ありとあらゆる外乱が存在しています。
よって、これらの外乱に対して、適切な操作をする必要があります。
プロセスの安定化
実際のプロセスでは、不安定な定常状態で運転することが多いです。
例えば、反応器の場合、低温だと反応速度が急激に低下し、逆に高温だと触媒が劣化してしまうことがあります。
つまり、温度変化があると、高温低温どちらに進もうが反応器は不安定になってしまいます。
よって、反応器の温度を設定値付近で制御し続ける必要があります。
運転の最適化
省エネ運転やオフスペック品の最小化など、プロセスを「経済的最適運転」するためにもプロセス制御は必須となります。
これまでのプロセス制御は、「安定化」が主目的となっていましたが、技術が進むにつれて「経済的最適化・環境影響の最小化」が主目的となっています。
プロセス制御の実例
上図は、蒸留塔周りのフロー図です。
上図のプロセスでは、液体原料1を反応器の液面見合いで供給し、気体原料2と接触させます。
そして、反応器から流量制御で蒸留塔に供給し、蒸留塔では、下記のような制御を行っています。
- 塔底温度の温度制御(カスケード制御)
- 缶出液は液面制御
- 還流量は、流量制御
- 留出液量は、液面制御(カスケード制御)
減圧蒸留や加圧蒸留であれば、塔頂の圧力制御をすることもあります。
また、加熱蒸気や還流量を調節することで、留出液や缶出液の組成制御を行うこともあります。
使われている制御手法
化学プラントで使われている制御手法は、PID制御が主流です。
その他、アドバンスト制御、モデル予測制御なども使われています。
制御手法 | 比率 |
PID制御 | 100 |
アドバンスト制御(比率制御、FF制御など) | 10 |
モデル予測制御 | 1 |
引用 矢野邦久:化学プラントにおける制御技術の現状と課題,計測と制御
上表のように、PID制御の比率が圧倒的に多いため、まずはPID制御から勉強を始めてみましょう!
PID制御については、下記記事で詳しく解説しています。
-
【わかりやすく解説】化学系のためのPID制御
続きを見る
アドバンスト制御は定義が広いため、特に下記の制御をイメージしています。
アドバンスト制御
- カスケード制御
- 比率制御
- フィードフォワード制御
最後に、モデル予測制御です。
モデル予測制御は、「経済的最適運転」をする上で欠かすことのできない制御手法になります。
よって、プロセス制御において、モデル予測制御は非常に重要になりますので、別記事で解説しています。
-
モデル予測制御とは?【コスト削減の鍵!?】
続きを見る
まとめ
まとめ
- プロセス制御とは、化学や石油などのプロセス産業における制御のこと。
- プロセス制御の目的は、
①安全運転(濃度等を目的の範囲内に保つ)
②安定運転(品質を一定に保つ)
③最適経済運転(省エネルギー、不良品の低減) - プロセス制御の特徴は、制御の良し悪しにより製造コストに大きく影響を与えるところ。
- 制御対象は、温度・圧力・液面・流量・組成など。
- プロセス制御において、最もよく使われる制御手法はPID制御。
参考文献
1.プロセス制御工学
プロセス制御についてコンパクトに網羅されている教科書です。
周波数応答やモデル予測制御、システム同定なども解説されており、関連書籍の中で最もバランスが良いと思います。
この教科書を学生の時に読んでいたら、絶対挫折していたと思います。
ただ、いかにも現場らしい例題がたくさん使われており、個人的にかなり好きな教科書です。
社会人1、2年目でじっくり読んでおけば、かなり力がつくと思います。
製造プロセスに携わることになったら、ぜひ手に取ってみてください。
ただし、上記2冊を読みこなすためには、制御工学の基礎を学んでおく必要があります。
初心者向けで一番のオススメは、はじめての制御工学です。
この本は、今まで読んだ本の中で一番わかりやすかったと思います。
また、2つ程台詞を引用させてもらいましたが、実際の計装エンジニアをモデルにした「生命燃ゆ」という小説もおすすめです。
読んだらプラント建設したくなりますね!